Liner Notes アルバム詳細情報
エマニュエル・シシ『アーバン・アドヴェンチャー』 レッド・フィッシュ・ブルー  『ディープ』 このCDを購入する
GJHD003 \2,500(税込価格) オーストラリア
寒い冬の夜にもほっこりするピアノトリオ…。南国情緒溢れるパーカッションが繰り出すリズムが、透明な世界に溶け込んでゆくようなピアノトリオの演奏と相俟って、詩情豊かな空間を作り上げます。

■曲目
1. エレグァ Elegua
2. 天使が空から舞い降りた An Angel Fell from the Sky
3. デュエット 1 Duet 1
4. ディープ Deep
5. ソング・フォー・リア Song for Ria
6. デュエット 2 Duet 2
7. ジャダー・バー Judder Bar
8. ディーパー Deeper
9. エレグァ(リプライズ) Elegua(Reprise)
■メンバー
サム・キーヴァース Sam Keevers(p)
サイモン・バーカー Simon Barker(ds)
ブレット・ハースト Brett Hirst(b)
ジャヴィエ・フレデス Javier Fredes(perc)

■録音
2001年10月メルボルンにてスタジオ録音
■解説
 もう10何年前の話である。私はまだ学生で、時間の上手な潰し方も知らなかった頃、何をするというわけでもなく、ただただ時間を持て余していて、大阪梅田の紀伊国屋書店に入った。今だったら、JR高架下にある串かつ屋に入ったことだろう。忙しい人にとっては、暇は憧れのようなものであろうが、暇な人にとっては、暇なことほど退屈なものはない。新刊の平台に並んである本をおもむろに手にとってみた。中島らもが書いていた。らも氏は、有名で人気のあるエッセイストであるが、私自身は彼の書物をよく読んだりしたわけではない。むしろ、よく知らない、と言っていいだろう。でも、そのらも氏が書いていた。この時、立ち読みした内容はうろ覚えで、もしかしたら事実と違っているかもしれない。時間も経ち、私の希望や夢とかが綯い交ぜになり、一人歩きしてしまっているかもしれないことを、先にお断りしておかなければならない。

 とにかく、らも氏は、自分が普段、現実に生きているこの世の中を憂いておられた。もしかしたら、地球の重力そのものも憂いておられた気もする。そして、出来たら、海の中にシュノーケルをつけて潜り、岩下に隠れて波にゆらゆら揺られながら時を過ごせたらどんなにかいいだろう、どんなに楽だろう、そんなことが書かれていたような気がする。こんな出だしで始めたのも、このCDを聴いていると、当時の私の脳裏に刻まれてからずっと離れずに残っていた、このゆらゆらした漂うような印象が、どこからともなく蘇ってきたのからである。ジャケットの魚たちがゆったり泳ぐ様が気持ちよさそうだったからかもしれない。

 このCDは、オーストラリア産である。私は南半球に生まれてこのかた行ったことがない。今、日本は真冬だから、さそがし彼の地はあったかいんだろうな。

 このアルバムでピアノを弾いているのは、サム・キーヴァース。メルボルンで活躍するピアニスト。キーヴァースは、以前、自主制作盤でリリースしたピアノトリオ盤では、黒人臭漂わせる、かなり粘りのある力強いタッチのピアノを弾いていたのだが、ここで彼が弾くメロディーラインは、その時とちょっと違う。ヨーロッパ風と言っても過言でないクラシカルな静けさを同伴させている、とか言うとそれらしいが、とにかく気持ちがいいのだ。シンプル・アコースティック・トリオの「ハバネラ」の1曲目に似たような…。ハバネラは、寺島靖国氏曰く「潜水艦が深い海に沈んでゆくような…」沈静を湛えていたが、キーヴァースの沈静はどこか違うのである。どことなく明るい。光を感じさせる、朗らか、と言ったらいいだろうか、「ほっこり感」があるのだ。しかし、タッチの強靭さは相も変わらずで、そのうねりが、鯨が南洋の海で突然ジャンプするみたいで、これまた心地よさを誘う。ビシャッと波が飛び散った後に訪れる静寂。そうした時間の流れも温かい空間がそっと包んでくれる。気持ちよさをさらに掻き立ててくれるのが、作品を通して活躍するパーカッションである。普通、ピアノトリオにパカパカとパーカッションが入っていたら、真剣さがなくなって、おちゃらけになってしまうことが多い。しかし、ここではその間延びがいいのである。全く、お見事としかいいようがない。1曲目は17分、2曲目は12分。このようなピアノトリオ盤の制作は、日本のジャズ界ではご法度とされている。しかし、あまりにゆらゆら、ゆらゆら気持ちよく漂わさせてくれるから、時間の長さを感じさせない。そうこう思ってまどろみかけていると、オーストラリアの原住民が月夜の晩に、突如、大群で押し寄せてくるような不意撃ちを食らわせる曲も出てきたりして、フッと我に返ったりする。でも、その襲撃もゴーギャンの絵画の中で起こったようで、また、錯覚から夢の中にふらふらと逆戻りしていく。ああ、夢見心地になってきた。ハロゲンヒーターがほんわかと部屋を照らしている。早く、春が来ないかな〜。今は亡き、中島らも氏がこのアルバムを聴いたら、どんな風に思ったのだろうか?
(2006.1.19. 笠井 隆)



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