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ナタリーロリエ特集
ベルギーが生んだ才媛ピアニスト=ナタリー・ロリエの来日公演が遂に実現する!この時を待ちに待っていたファンは、ぼくだけではあるまい。今年からスタートするライヴ・イヴェント「ザ・シナジー・ライヴ」の第1回として、ヨーロッパの新世代に属するミュージシャンにスポットライトを当てた、ほとんどが初来日となる6組のシリーズ・コンサートが企画されたのである。同ライヴは来る6月、東京・紀尾井ホールで連続6日間、各日2組(最終日のみ3組)のステージが予定されているが、このようなシリーズ形式、もしくはジャズ・フェスティヴァル・スタイルのイヴェントでなければ、ロリエの来日は難しかったのではないかと思う。何故ならばジャズで単独でのホール・コンサートを満員にすることは今や至難の技だし、ジャズ・クラブへの出演でペイさせるには全10回程度の全国ツアーを組むのが通例だからだ。今回「シナジー」での来日に至るまでに、企画に携わっている某氏からピアニストのリスト・アップを依頼され、その中にロリエを加えたという経緯がある。「シナジー」のラインアップでナタリーは唯一の女性ピアニストになるわけだが、現在の欧州ピアノ・シーンを見渡してみると、ロリエが出演者として名を連ねたことは至極適切な人選だと言っていい。また来日公演の決定に伴って、2001年にガッツ・プロダクションから国内配給された本アルバム『サイレント・スプリング』が、装いも新たに再登場するのも、「シナジー」のおかげなのである。

ナタリー・ロリエは1966年10月27日、ベルギーのナミュール生まれ。最初にクラシックを学んだが、やがてジャズに関心が移り、王立ブリュッセル・コンセルヴァトワールのジャズ科で演奏や和声を学んだ。90年にはジャズ批評家協会から、和声とピアノの最優秀賞と、ブリュッセルの「ベルガ賞」の最優秀ソロイスト賞を受賞。91年にはフランス語圏のパブリック・ラジオ・ジャズ・コンテストで最優秀。99年ベルギーの「ジャンゴ賞」金賞、2000年「ユーロ・ジャンゴ賞」のコンテンポラリー・ヨーロピアン・ジャズ・アーティスト賞、さらにヨーロピアン・ミュージシャンとしての業績に対してフランス・ジャズ・アカデミーから「ボビー・ジャスパー賞」をそれぞれ受賞と、輝かしいキャリアを誇る。また94年からはブリュッセルのKoninklijke音楽院でピアノ教師を務めており、こちらで想像する以上に母国では高いステイタスを確立しているものと思われる。これまでにフィリップ・カテリーン、エレーヌ・ラバリエル、レイチェル・グールドらと共演した。リーダー作は以下の5枚がある。

1.NYMPHEAS (Igloo) 90
2.DANCE OR DIE (Igloo) 93
3.WALKING THROUGH WALLS,WALKING ALONG WALLS (Igloo) 95
4.SILENT SPRING (Pygmalion) =本作 99
5.TOMBOUCTOU (De Werf) 02

1.はサックス入りのカルテット作。自作曲のメランコリックで叙情性豊かなメロディと優美なピアノ・タッチが魅力的で、リッチー・バイラークの影響がアレンジに濃厚な「ナルディス」もインパクト大だ。ベルギーの現代ジャズ・ピアニストの先駆者でもあるチャールズ・ルースがライナーノーツを執筆している。2.も同じくワン・ホーン・カルテットで、全曲オリジナルで臨んだ意欲作。キース・ジャレットのソロ・コンサートや70年代のアメリカン・カルテットを連想させるサウンドを展開。キャメロン・ブラウン、リック・ホランダーの参加は、この若き女性ピアニストに対する制作者の大きな期待を示した。3.は初のレギュラー・トリオによる1枚。引き続きコンポーザーの才能も全開。ビル・エヴァンス譲りの清洌なリリシズムにより、ロリエが欧州ピアノ界のトップ・クラスにいることを証明した。最新作の5.は"ナタリー・ロリエ・トリオ+エクステンションズ"とクレジットされているように、トランペットと2サックスの3ホーンズを加えた初のセクステット・アルバム。また同作は現在のベルギー・ジャズ・シーンを代表する10組のアーティストを紹介したシリーズ"ザ・ファイネスト・イン・ベルジャン・ジャズ"の1枚に選出されており、これまでにも増して作・編曲家=ロリエの力量をクローズアップした内容だ。ロリエの個性的な創造性が求められたセッティングで、彼女は表現者として一段と逞しくなった姿を披露している。

以上のリーダー作の他、クール・トランス・カルテット名義の『DISCOVERIES 』(93 年、RTBF)は、実質的にリー・コニッツとのダブル・リーダー作で、スタンダードとジャズ・ナンバーを収録。また参加作には、ジャン・フランソワ・プリン『NYストーリーズ』(GAM) 、フェリックス・シムタン『ル・ジャズ・パール・ル・ノール』(WBM) 、デヴィッド・リンクス『ホエン・タイム・テイクス・イッツ・シェアー』(TWI) 、ヤン・ド・ハース『フォー・ザ・ワン・アンド・オンリー』、イワン・ポダート『トゥルー・ストーリーズ』( 以上Igloo)、トゥーツ・シールマンス『ザ・ライヴ・テイクス Vol.1』(Quetzal) 、エマニュエル・シシ『ルアンジェ・カチェ』(Pygmalion) 等がある。

ロリエの第4弾である本アルバムは、前作と同じサル・ラ・ロッカ(b) 、ハンス・ヴァン・オースタハウト(ds)とのトリオ作だ。全曲ロリエのオリジナルで、ここでもコンポーザー/ピアニストの本領を発揮している。 アルバムは衝撃的な導入部の「リキューリング・ドリーム」でスタート。ハード・ドライビングなプレイは、それまでの作品とは趣の異なるロリエの新境地と言っていい。一転して「サイレント・スプリング」は静謐なムードのバラード。テンポ・ルバート風の展開は、トリオのコラボレーションが非常に自由な形で成立していることを物語る。思わず引き込まれる演奏だ。「ノヴェセント」はピアノの右手と左手が対照的な動きを示すテーマで始まり、ラ・ロッカのベース・ソロをはさんで次第に熱気を帯びて行くあたりが聴きもの。「コンティニューム」は鋭角的なリズム・パターンを持続させながら、シリアスに進行する。後半4ビートに移行したピアノ・ソロを経て、再び冒頭と同じパターンに戻り、予想外の形でジ・エンド。「ラ・クイクス・デュ・サド」のロリエは、キース・ジャレットを想起させる場面が現れてドキリとさせられる。ピアノの美しさと抑え切れない心情の切迫感を同時に表現。「ザ・パーティー」はメロディ・ラインとピアノ・プレイがキースの『ビロンギング』収録曲「スパイラル・ダンス」を彷彿させる。ピタリと決まったエンディングも爽快。「エントレ・シエン・エト・ロープ」を聴き進めていくと、ピアノ・ソロの途中でロリエが声を漏らすのがわかる。声が出た時がノッている時、がロリエの法則だ。「プラオ」はループ的なメロディとリズミカルなパターンの組み合わせによるナンバー。ここでもベース・ソロが場面転換の役割を果たしている点が見逃せない。ラストの「ヴィヴェメント・ディマンク」はオープニング・ナンバー同様、エネルギッシュなサウンドがインパクト大。ロリエの躍動的なプレイが素晴らしい。

ガッツプロダクションが配給する その他のナタリー・ロリエ作品
・ナタリー・ロリエ・トリオ+エクステンションズ/トンブクトゥ(GBJS004/税抜定価2,190円)
・エマニュエル・シシ/隠れた天使(GRPY006/税抜定価2,095円) (ナタリー・ロリエ参加アルバム)
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サイレント・スプリング
シナジー・ライヴ2003で初来日を果たすベルギーが生んだ才媛、ナタリー・ロリエがピアノ・トリオという凝縮された形態の中で、その魅力を最大限に発揮した代表作。

サイレントスプリング
今回2曲目と、6曲目が試聴できます。
【曲目】

1 何度もみる夢
Recurring Dreams
2 サイレント・スプリング
Silent Spring
3 20世紀
Novecento
4 連続
Continuum
5 南十字星
La Croix Du Sud
6 パーティー
The Party
7 犬と狼の間で
Entre Chien et Loup
8 プラオ
Prao
9 ウキウキする日曜日
Vivement Dimanche

* Nathalie Loriers
ナタリー・ロリエ(p)
* Sal La Rocca
サル・ラ・ロッカ(b)
* Hans Van Oosterhout
ハンス・ヴァン・オーステルホウト(ds)
  (1999年ベルギーブリュッセルにて
録音)

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